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最後の打者栗山選手を三振に仕留めて完封で12勝目を挙げ、こん身のガッツポーズを見せる杉内投手 |
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お立ち台に上がって笑顔を見せる12勝目を挙げた杉内投手(中央)と田上選手(左)と松田選手(右) |
これぞエースだ!杉内俊哉投手が今季3度目の完封でリーグトップタイの12勝目を挙げた。首位西武を無四球で単打4本だけに抑え、二塁すら踏ませなかった。これでチームは今季初の6連勝、西武に5カード目で初めての勝ち越しを決め、6月15日以来の貯金10。ついに1.5ゲーム差と肉薄した。
グラブをたたいた左手をグッと握りしめ、野球少年のような笑みがはじけた。「よっしゃっ!」。燃えさかるような赤のユニフォームに身を包んだ杉内投手が、会心のガッツポーズだ。無四球の4安打完封。汗を飛び散らせながら投じた最後の116球目は、内角低めの140km/h直球。栗山選手に手も足も出させず、10個目の三振を奪って決めた。
杉内投手「連勝ストッパーにならなくてよかった。僕の夢では1-0だったんだけどね。完封は当たったね」
吉夢を自力で正夢にした。登板4日前、大阪の宿舎で夢を見たという。抑えるイメージはすでにできあがっていた…のかもしれない。西武打線の裏をかく配球で幻惑した。奪った三振のうち半数にあたる5個がスライダーで仕留めたもの。生命線の直球でも、必殺のチェンジアップでもなかった。頭脳戦の勝利だった。
杉内投手「(相手は)真っすぐとチェンジアップに意識があるだろうし、スライダーやカーブを投げると反応も変わってくると思った。あれだけワンバウンドのスライダーを振るってことは(打者の)頭にない球だからだろうね」
冷静な脳裏には、チームの勝利しか考えていなかった。8回表終了後、ベンチで続投の意思をたずねた高山郁夫投手コーチに「判断は任せます」と言い切ったという。まだ108球と球数には余裕があった。それでも“わがまま”は言わなかった。「ウチは後ろ(中継ぎ)の投手がいいんでね」。もちろんベンチに代える理由などない。そしてエースは期待に応えた。首位に1.5ゲーム差とした秋山幸二監督も「今日は杉内だけだな。よく最後まで投げてくれた」と賛辞を贈った。
後輩へ「1週間遅れ」の手本を示した。2週間ほど前、まだ1勝もできずに苦しんでいる岩崎翔投手にロッカーで声をかけた。「どんな気持ちで投げてる?」。時にうなずき、悩める思いを聞いてやった。助言はシンプルだった。「マウンドに上がったら気持ちだけ。他には何も考えない」。だが、前回13日の楽天戦では、4年以上勝っていないKスタ宮城で自分を見失い、6回4失点で敗れた。怒りと悔しさが冷め、思い出したのは自分自身の言葉だった。
12勝目はリーグトップの和田毅投手に並んだ。「数字を見れば勝っているように見えるけど、内容はさほど良くない。もっといい投球ができるように頑張る」。目指すのはもっと上だ。先月から続ける禁酒生活の先に、最高の美酒が待っていると信じて。