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9回表2死二塁、杉内投手はスレッジを三振に仕留め力強くガッツポーズ |
これがエースだ!杉内俊哉投手が日本ハム打線を9回わずか2安打1失点に抑え、今季12勝目を挙げた。自己記録を4年ぶりに更新する15奪三振で、自身初めて先発全員から奪った。連投の中継ぎ陣を温存したいベンチの要求に今季4度目の完投で応えた。エース左腕のフル回転で今季初の同一カード3連勝。首位日本ハムと3ゲーム差に縮めた。
完投まであと1ストライクで杉内投手が白い歯を浮かべた。最後の打者スレッジ選手をカウント2-1と追い込み、自信のあった外角低め直球がボールの判定。「そこがボール?」と余裕の笑みだ。それならばとラストはほんの少しコースを上げて同じ外角に143km/hをズドン!スレッジ選手のバットが遅れて空を切った。球威と制球は衰えていなかった。「接戦の時は出ちゃうんよね」。タイガー・ウッズ選手のガッツポーズで珍しくほえまくった。
ファルケンボーグ投手が右ひじ違和感で登録抹消され、攝津正投手と馬原孝浩投手は連投の疲労を考慮してベンチは温存策をとった。勝利の方程式「SBM」に使用制限がかかる難易度の高いマウンド。高山郁夫投手コーチからも「代えるつもりはない」と言われ、杉内投手は腹の底からわき出るエネルギーを感じた。「いけるところまで行こう。初回から飛ばした」。直球は伸び、同じ腕の振りからのチェンジアップは十分なブレーキが効いた。「高校球児を思い出して一生懸命投げた」。鹿児島実のエースとして出場した11年前の夏の甲子園。丸刈り頭でノーヒットノーランをやってのけたころのように滝の汗を流して腕を振った。
初回に併殺崩れの間に許した先制点がプラス思考の杉内投手を乗せた。「初回に点を取られると7回くらいまでポンポンといく。いつも通りだなと」。予想どおり2回から8回までは無安打ピッチ。終わってみれば先発全員から15奪三振で、05年8月20日西武戦の自己記録を1つ更新した。わずか2安打の日本ハム福良ヘッド兼打撃コーチは「あんないい投球されたらどうにもならない」とお手上げ。投げた杉内投手が「もう1回この投球をしろと言われたらできるかな」というのだから当然だった。
今季4度目の完投&12勝目は新たな収穫もある。3回2死で稲葉選手にカウント1-0からチェンジアップを投げた。ファウルでカウントを稼いで直球で空振り三振。「ここまではワンバウンドしたり、いまひとつだったけれど」。昨年フィリーズでワールドシリーズ制覇に貢献した先発左腕ハメルズ投手をヒントにした投球術。右打者への有効球を左打者に使い、今後の配球に幅を持たすことができた。
今季初の同一カード3連勝で貯金は後半戦最多15。日本ハムと3ゲーム差に接近した。秋山幸二監督は「攝津と馬原が投げないのを分かって、責任感を持ってやってくれた。最高の投球。大したもんだ」とたたえた。大仕事をやり遂げた杉内投手はお立ち台で「最高においしいお酒が飲めそう」と叫んだ。帰宅後、自分へのご褒美が待っている。最近手に入れた12年もののシングルモルトウイスキー。飲み方は今はやりのハイボール。脳裏に浮かぶこの日の快投を“つまみ”に爽快(そうかい)な味わいを楽しんだに違いない。