 |
4回裏2死二塁、右越えに先制の2点本塁打を放ち先発の小椋投手(左)らナインと笑顔でハイタッチする松中選手 |
松中信彦選手が、渾身(こんしん)の一撃だ。3試合ぶりに先発メンバーに名を連ねると、4回の2打席目に先制9号2ラン。36日ぶりの1発は、今季初めてとなる左投手からのアーチ。オリックスT-岡田選手のようなノーステップ打法に取り組み始めるなど、苦しみ抜いたシーズンの佳境で、大砲が目を覚ました。
わずかだが松中選手の右足は上がっていた。4回の2打席目。楽天松崎投手の高め直球をとらえた。内心思った。「ちょっと、こすったかな」。だが、高々と上がった打球は、右翼スタンドに飛び込んだ。先制9号2ラン。当たりは薄くても、スタンドインした。それは紛れもなく、軸足の左足に体重が乗った証しだ。8月4日以来36日ぶり弾は、松中選手が求め続けた感触だった。
松中選手「やっと足が使えるようになってきた。左にしっかり乗せられた。」
新たな取り組みに着手し始めたばかりだった。前日8日の早出練習で、オリックスT-岡田選手のようなノーステップ打法を試してみた。実際のフリー打撃で取り入れたのは、この日から。1打席目もノーステップで打ってみた。「ノーステップ?いや、(2打席目は右足を)上げたよ。1打席目でタイミングが合わなかったから。(ノーステップ打法は)練習ではいい形になってきた。続けていけば、体が思い出すところがある」。背番号3には、04年に3冠王に輝いた技術がある。下半身主導で打ちに出る感覚が、よみがえり始めていた。
打ちたかった。期待に応えたかった。3試合ぶりの先発出場。あのときの思いを胸に、打席へ向っていた。日本ハムとの2軍練習試合に参加した8月28日。携帯電話が鳴った。「(左手首は)どうだ?」。秋山幸二監督だった。「変わらないです」。シーズン中の手術回避を決断した以上、痛みと付き合うことは覚悟していた。本来の打撃の調子を取り戻さない限り1軍復帰はないことも理解していた。だが、指揮官は短く「神戸からいくぞ」。今月3日のオリックス戦での1軍復帰が決まり、胸を熱くした。痛めた左手首は治っていない。この日のシートノックも守備に入ることはなかったが「やれることをやるしかない」と言い切った。
9号アーチだが、今季初めて左投手から打った。この日まで左投手には61打数12安打(打率1割9分7厘)と苦しめられていた。今日10日の日本ハム先発は左腕武田勝投手。今季5勝を献上するなどチームが大の苦手とするサウスポーだ。その武田勝投手に昨年松中選手は、チーム左打者で唯一アーチを浴びせている。「明日は明日です」と松中選手。ただ、苦しみ抜いた今季の流れを変えるきっかけをつかんだのは、確かだ。優勝争いの大詰めで背番号3のバットがチームを救う。