 | | 5回裏無死、凱旋弾を放った松中選手が生還し歓声を上げる熊本のホークスファン | ダイヤモンド1周を終えた松中信彦選手が、バックネット裏に右の人さし指を突き上げた。プロ13年目、故郷熊本のファンの前で1発を初披露したのは5回だ。先頭で打席に入り、西武岸の140km/hキロをとらえた。永遠のテーマで“好物”でもある内角高め。この日も強烈な軸回転から弾丸ライナーで右翼芝生席へはじき返した。 「前の打席でやられていたので打ちたかった」。2回は同じ球に詰まらされたが、同じミスはしない。「完ぺき。ここで打てて本当に良かったです」。自分らしい本塁打に胸を張った。 熊本・藤崎台球場は八代一(現秀岳館)高時代から慣れ親しんだ場所で「プロ選手松中」の礎も築かれた。同1年でレギュラーを獲得するも9月に利き腕の左ひじを故障。ボールを投げられない絶望のふちを味わった。松中選手を救ったのは父・敏治さんのひと言だった。 「右投げにすればいいんだ!」。不格好なキャッチボールに付き合ってくれ、4ヶ月の猛特訓で右投げに転向。そして、最初に試合出場したのがこの藤崎台だった。この日の練習中は井出竜也外野守備走塁コーチの右投げ用グラブを試しにつけ、白い歯を浮かべた。「今日は右でやってみようかな。今でも投げられるよ」。原点とも言える球場で放った1発。本塁を踏んだ後のパフォーマンスはネット裏にいた両親、応援団に感謝の思いとしてささげた。 4回まで埼玉西武・岸投手の前に打線は無安打だったが、5回は松中選手に続けと、小久保裕紀選手、長谷川勇也選手が連打。柴原洋選手が犠打でチャンスを広げ、高谷裕亮選手が2点適時打と攻撃がかみ合い、一時は1点差とした。「流れがきたので良かったですがね」。しかし、攻守ともミスが響き、チームは敗れた。 松中選手「勝てればよかったですが、(ミスは)一生懸命やったことですから。地元のファンに喜んでもらいたかったですね」。 アーチをかけたのは通算22球場目。どこよりも打ちたかった球場だろう。黒星の中でも主砲の一撃だけはキラリ輝いていた。 |